ストーリー、プロット、ハコ書き。これら全てを駆使して生み出されるのが脚本。
台本も演出も撮影も全部、この脚本が基になっているから、いわばドラマや映画の心臓部分にあたる。
とは言っても、日常生活で脚本を見る機会なんて無いから、やっぱりイメージが沸かない。
ここでは脚本についてざっくりと紹介しつつ、どんな意図をもってつくられているのかをお伝えしていく。
脚本の構成と推敲
①脚本の要素
脚本は3つの要素でできている。「柱」と「ト書き」と「セリフ」だ。
まずは「柱」。シーンを表す要素で頭に「○」を付け、時間帯や日替りを(朝)、(夕方)、(日替)と書く。実際に台本を刷るときは、柱にシーンナンバーが入るので、先に入れてしまうのもアリ。
次に「ト書き」。情景や人物の動きを客観的に描写したもの。上から3マス空けるのがルール。書きすぎはNGで、簡潔な記述が求められる。
そして「セリフ」。その名の通り、人物のセリフを記載する。2行目からは頭1マス空けて書く。下で詳しく解説する。
縦28文字、横32行を1ページと設定すると、ちょうどドラマの1分にあたるとのこと。だから、45分の通常のドラマであれば約50ページ分、2時間の映画となれば100ページ強の文量となる。
セリフの役割
セリフには以下の役割がある。
【セリフが持つ役割】
①ストーリーを展開させる
②人物のキャラクターを描く
③人物の心境を表す
④伏線としての機能
順番に見ていこう。例えば、彼氏と彼女が休日の予定をどうするか話し合っていたとする。
このとき、彼氏が「明日、海に行こうか」と言えば、海へ向かう展開思わせる。
それに対して彼女が「イヤ。海行きたくない。家にいる」と答えたら、強情そうな性格がうかがえるだろう。
そこですかさず彼が「この前一緒に行くって言ってたじゃん」といえば、内心楽しみにしてたのに断られて悲しいのが分かるし、彼女がそれに「あの海は危ないって聞くし」とつぶやけば、今後海で何かが起きるというフラグを立てられる。
ちなみに、セリフが冗長になると、要領を得なかったり、話が進まなかったりと、観客を白けさせる原因となる。著者によると、上記の役割以外のセリフは全て割愛して差し支えがないとのこと。
映画やドラマは言葉ではなく画で魅せるもの。説明くさいセリフや独り言など、人から見て不自然と思われるセリフはどんどん削っていこう。
ありふれた言葉を使い、声に出して読んでみる
セリフは感情を表現しやすく、映画の華として記憶に残りやすい。そのため、脚本に慣れていないと、奇をてらったり、気の利いたセリフを書こうとしてしまいがちに。
しかし、こうしたセリフは、文字の上では上手く書けたとしても、音に出してみると変な感じがするということはザラ。そのため、まずは誰もが使っている、ありふれた言葉を使い、観る人の感情に訴えかけることが大切なんだとか。
だから、セリフを書くときは、肩肘張らずに自然な言葉遣いを意識した上で、書いた後に実際に読んでみるのがいい。
また、男性が書いた女性のセリフは、女性が聞くと違和感を覚えることが多いので、女性に読んでもらうのも有効だ。
②脚本の流れ
脚本の流れは、大きく分けて「導入」「展開」「結末」にできる。
それぞれの部分で意識することを以下にまとめてみた。
【脚本の流れで意識すること】
・導入
観客の興味を惹きつける。その後の劇的な展開を予感させることが重要。
・展開
ハコ書きから溢れないようにセリフとト書きに落とし込む。構成を変えるならハコ書きを組み直す。
・結末
結末を迎えたら、すぐにエンドマークを出すこと。蛇足は最小限に。
導入では「劇的な展開」を予想させる
どんな作品でも、頭を悩ますのが導入。記憶に残る出だしにしたいと思うほど、一向に筆が進まなくなるもの。
しかし、著者によれば、必ずしも鮮烈なファーストシーンで始める必要はないのだそう。
なぜなら、上映(放送)開始直後は、観客が”温まっていない”ため、魅せる演出よりも興味を惹くことが重要だから。
「この後どうなるの?」、「先が気になっちゃう!」と思ってもらえれば、導入は成功。安心して物語に没入してもらえるだろう。
観客を引きつける要素はたくさんある。例えば、興味深いキャラを出す、トラブルを起こす、謎を提示する、幸福な場面を出し、反動を予想させるなど。要は、その後の劇的な展開を予感させる要素があればいい。
展開の原則はハコ書きからあぶれないこと
導入の後は、ひたすらハコ書きに沿って、ト書きとセリフを書いていく。このとき、興が乗って小バコから内容がはみ出したり、セリフが脱線したりすることがある。そうなった場合は、基本的には展開に関係のない部分を切り捨てること。
しかし、内容を変えたほうが面白くなると確信した場合は、脚本作業を一旦中止し、ハコを組み直す。このとき、話の流れにも影響が出るため、中バコから書き直す必要がある。
大変なように見えるが、前に書いたハコ書きを参考にすればいいので、時間はそこまでかからないんだそう。
結末を迎えたら、エンドマークを迅速に
最近の映画を見ていると、エンドロールのあとにエピローグを流す場合が多い。「もう少し続きが見たい」と思うときもあるので、ファンサービスとして嬉しい一方、これはちょっとした”賭け”でもある。
というのも、物語が結末を迎えた後に話を引き伸ばすと、それが蛇足となり、せっかくキレイに終わったのに白けてしまうこともあるから。
実際に自分が脚本を書くときは、あれもこれも入れたいと、最後になって欲が出てしまいがち。有終の美を飾るためにも、”簡潔かつ鮮やかに”を心がけたい。
③脚本の質を高める推敲
どんな脚本であっても、完璧な初稿はありえない。設定ミスや誤字、欠点は必ずある。だから、出来上がったあとの書き直し、もとい推敲はしかるべき作業となる。
しかし、書いてからすぐに推敲するのはNG。ブログや原稿を書くときと一緒で、書いてから日が浅いと、文章を客観的に見れず、推敲が不徹底に終わってしまう。
できれば、推敲は初稿から1週間ほど空けてから行うのがオススメ。”他人の作品を見るような目”で見れれば、推敲の質も高まる。また、誰かに読んでもらって意見をもらうのもありだ。
推敲を通して出来上がった2回目の脚本は、1回目とは見違えるほどの出来となる。例えるなら、金属にヤスリがけして、最後に鏡面仕上げをするようなもの。やればやった分だけ、納得のいく作品に仕上げることができる。
脚本を知れば、映画がもっと楽しめる
ここまで書いておいてなんだが、これを読んでいるあなたにとっては、脚本作りなんて縁がないと感じるかもしれない。
「脚本を知らなくても作品は楽しめる」。それは全くもってごもっともだ。しかし、そこで終わってしまうのはなんだか少し勿体ない。
料理で考えてみてほしい。シェフに出された料理は、ただ食べるだけも満足はできる。しかし、料理の素材がどこで採れたもので、どんな工夫を用いて料理されたのかなど。たった一品の料理であっても、そこに至る”道”を知れば、”深み”を感じることができる。
同じ作品を見て、1を受け取るのか、それとも10を受け取るのか。どうせ観るなら、そこからより多くの気付きを得られた方が楽しいに決まっている。作品の”内側”を知り気付きや発見が増えれば、楽しみも広がっていく。
そして、最も楽しいのが、自分で素材を集め、自分で料理すること。クリエイターは、自分で作品を作ることが最も面白いということを身体で分かっている。だから、どんなに面倒で、どんなに辛くても、めげずに前へと進むことができる。
私も、一度でいいからその境地を味わいたい。創作に魂を奪われてみたい。楽しくて仕方がないと叫んでみたい。
そんな気持ちを持てたのは、本書のおかげ。作品の心臓にあたる脚本を学ぶことがこんな刺激になるだなんて、思いもしなかった。
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